新規制基準は国際的なスタンダードを満たしていない

 2011年3月11日の東日本大震災から5年が経とうとしていますが、福島第一原子力発電所の廃炉に向けた作業は遅々として進んでいません。福島県大熊町で汚染土の保管場への試験輸送が2015年3月から1年の予定で始まっていますが、福島第一原発では汚染水の流出がいまなお続いています。
 そういうなかで、政府は原子力発電所の再稼働を始めました。2015年8月に九州電力川内原子力発電所の1号機、10月15日に同2号機、2016年1月に関西電力高浜発電所の3号機、1月に同4号機が再稼働しました。しかし、2016年3月10日、大津地方裁判所は、「過酷事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点がある」として滋賀県住民の申し立てを認め、運転を差し止める決定を行いました。これは、原子力規制委員会の新たな規制基準では、原発の再稼働は認められないという厳しい判断です。
 私は、この大津地裁の決定以前から、この新規制基準の問題点を指摘してきました。これについて、どこが問題なのか、ここで述べておきたいと思います。
 原子力規制委員会は、下記のような反省のもとに新基準を策定したとしています。

 そして、「原子力の安全には終わりはなく、常により高いレベルのものを目指し続けていく必要があります」としています。
 しかしこの新基準について、専門家からは世界的なスタンダードになっている、①格納容器を二重にする、②圧力容器の外にメルトダウンした核燃料が流れ出ないようにするコアキャッチャーを義務づけていないと、疑問を呈する声があがっています。
 それだけではありません。周辺住民の避難計画がまったく考慮されていないのです。
 避難計画の策定は周辺の自治体任せで、計画策定の責任者もはっきりしません。再稼働の必須条件に、避難計画は含まれていないのです。避難計画を立てるためには、周辺住民が通る複数の道路の整備もしなければなりませんし、自家用車が殺到して渋滞になるのを防ぐためにバスなどによる避難を考えなければなりません。さらに、避難の受け入れ先をどうするかも事前に決めておかなければなりません。しかし、そういった避難の詳細について基準ではまったく定められていません。
 福島第一原発の事故では、3月11日に2キロメートル以内の住人、翌3月12日の夕刻に20キロメートル以内の住人に避難指示が出され、3月15日には半径20〜30キロメートル圏内に屋内退避指示が出されました。大渋滞のなかで避難は混乱を極め、放射線量の高い方向に移動することになった人たちもいました。また、この圏内には病院もありましたが、搬送中や搬送後に重病人21人が死亡しています。
 いくら原子力規制委員会が厳しい新基準で審査した原発だけ再稼働するといっても、新基準が国際的なスタンダードを満たしておらず、事故が起きた場合の避難計画についても触れていないのですから、とても「常により高いレベルのものを目指し続けていく」ものとは評価できません。かつて日本の原子力開発は事故が起きないことを前提に進められていましたが、福島第一原子力発電所の事故を踏まえた新規制基準もまるで変わっていないということです。これでは、絶対に再稼働を許すわけにはいきません。
 大津地裁の決定は、きわめて常識的な判断だったということなのです。

原子力発電のコストは経済合理性に見合わない

 原子力発電は、火力発電などと比較してコストが安いと考えられているようですが、けっしてそうではありません。
2015年に経済産業省の発電コストワーキンググループが長期エネルギー需給見通し 小委員会政府に対して行った報告では、1時間に1キロワット発電するのにかかる コストは原子力が10.1~円、石炭火力が12.3円、LNG火力が13.7円、 風力(陸上)が21.9円、地熱が19.2円、一般水力が11.0円、小水力23.3〜27.1円、 バイオマス(専焼)29.7円、バイオマス(混焼)12.6円、石油火力30.6〜43.4円、 太陽光(メガ)24.3円、太陽光(住宅)29.4円、ガスコジェネ13.8〜15.0円、 石油コジェネ24.0〜27.9円となっています。
 一見、原子力発電のコストが安いようですが、これには廃炉や核燃料の再処理のコストが入っていません。 さらに、福島第一原子力発電所の事故で経験したように、事故処理と補償にはとんでもない費用が必要になりますが、 こういったこともコストに含まれていないのです。
 損害額や補償額がどれくらいに上るか集計した最新のデータはありませんが、 NHKが事故から3年後の2014年3月に試算した数字によると、除染や賠償、原発の廃炉費用など、 原発事故に伴う損害について政府や東京電力が公表した当時のデータを足し合わせたところ、 11兆1600億円となったそうです。2011年12月に政府の委員会が試算したときは5兆8000億円 という数字だったとのことですから、2年3カ月で1.9倍になったことになります。 事故から5年を経てこの額はさらに増えているかもしれませんし、さらに今後増える可能性もあります。
 なお、2005年の原子力政策大綱では、内閣府の原子力委員会が核燃料サイクルについて試算を行っています。 これによると、全量再処理した場合の総費用は42.9兆円で発電コストへの増分は1.6円/kwh、 部分再処理した場合の総費用は最大45.6兆円で発電コストへの増分は1.5/kwh、 全量直接処分した場合の総費用は最大38.6兆円で発電コストへの増分は1.1/kwhとなっています。 この数字について、2011年に原子力委員会の原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会は、 総費用は示さずに発電コストへの増分について、全量再処理した場合はさらに2.0円/kWh、 部分再処理に近い考え方の半分を20年後に、50年後に残りを再処理する場合はさらに1.4円/kWh、 シナリオ3はさらに1.0円/kWhという増分だけの数字を公表しています。 これらの数字がどれほど確かなものかいまの段階では評価することができませんが、 いずれにしても福島第一原子力発電所の事故のようなことが起きたら、賠償費用だけでなく、 有形無形のさまざまな損害が発生します。原子力発電所の建設、運転、そして処理にかかるコストは、 とても経済合理性に見合うものではないと言っていいのではないでしょうか。

代替エネルギーが日本の経済発展につながる

 日本が原子力の開発を行っていくうえでは、さまざまなリスクがあります。 また、2015年11月にパリでCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)が 開催されましたが、地球温暖化対策のためにCO2(二酸化炭素)の排出量も 減らしていかなければなりません。私は、原子力をベースロード電源として 位置づける日本のエネルギー政策を根本から変えなければならないと考えています。
 ベースロード電源は、コストが安くて昼夜や季節、天候などの自然現象に 左右されずに供給できるものでなければなりません。私は原子力発電に代わる ベースロード電源として、コストの安い天然ガス発電を推進していきます。 これに、既存の水力発電と、各種代替エネルギーによる発電を組み合わせることで、 温暖化対策を踏まえたエネルギー・ミックスを実現します。
 以下、私が考えているエネルギー・ミックス政策について説明していきます。

➊天然ガスパイプラインの建設

 私は、天然ガス発電をベースロード電源とすべく、積極的に推進していきます。天然ガスは、石油や石炭と比較して、CO2(二酸化炭素)、NOx(窒素酸化物)、SOx(硫黄酸化物)の排出が少なく、環境負荷が低いクリーンなエネルギーです。
地球温暖化の原因となる CO2 は石油の約7割、光化学スモッグの原因となるNOxは石油の約半分、酸性雨の原因となるSOxはまったく排出されません。中国では微小粒子状物質PM2.5が大気汚染の原因となっていますが、天然ガスは煤煙の原因となる粒子も出しません。
日本にも、千葉県を中心に一都四県にも及ぶ広大な南関東ガス田があります。ガス埋蔵量は7360億立方メートルにも及ぶともいわれていますが、採掘によって人口が密集する首都圏の地盤沈下が起きたため、現在は茂原地区でしか採掘されていません。現在、日本ではおもに、インドネシア、マレーシア、カタール、オーストラリア、ロシアなどからLNG(液化天然ガス)として輸入しています。
輸入されたLNGは、発電の燃料や都市ガスとして利用されるほか、タクシーなどの自動車の燃料としても利用されています。
 日本は、天然ガスの原産国からLNGをタンカーで輸入しています。LNGを使う際には海水で温めて液体から気体に戻します。そこから需要地、すなわち発電所などにパイプラインで送られているのです。
今後、発電事業と送電事業を分離する発送電分離が進むとともに、既存の電力会社のほかに天然ガス発電を行う会社が出てくることになるでしょう。天然ガス発電を行う企業に対してはパイプライン建設をはじめとする支援を行い、さらにLNGを気化するときに冷熱発電ができるので、このプラント建設などにも補助を考えていきます。社会の要請に応えられるベースロード電源とすべく、さまざまな取り組みをしていきます。

➋グリーン電力の推進

太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電などのグリーン電力の開発を積極的に推進します。
 太陽光発電は、日中ならびに季節の需要時に期待できる発電方式です。現在、自治体ごとにさまざまな補助金の制度がありますが、これを国として支援し、さらに普及へ弾みをつけていきます。また、変換効率のいい太陽光発電のシステムの研究開発も支援していきます。
 風力発電については、さまざまな設置場所の条件に合った発電が可能な小型の発電機の研究開発、普及を推進していきます。
 バイオマス発電は、下水処理、家畜の糞尿、植物残渣、木質廃材などで発電できるため、バイオマスの種類に応じた処理をすることにより、本来ならゴミとなるものの処理とともに発電できる一石二鳥の方法の発電方法です。今後、さまざまな試みが行われることになると考えられるので、適切な支援の方法を検討していきます。
 また日本には火山が多く、これは原子力発電はじめさまざまなリスクですが、これは同時に地熱発電には有利な環境でもあります。さらに地熱は、完全にクリーンなエネルギーなので、積極的に推進したいと考えています。
 ただし、既存の温泉業などや、国立・国定公園の景観や環境に影響を及ぼさない配慮も必要です。温泉地では、温泉としての利用後の温熱を発電に使用する協業の仕組みをつくるほか、発電施設を景観を損なわないよう地下に埋設するとともに、その上部を温泉街の発展に寄与するようなレジャー施設や博物館とするなど、地域一帯の発展を目指す計画を支援してまいります。
 また、国立・国定公園内の開発は規制緩和の流れのなかで国立公園内の開発の届け出が必要なくなりましたが、施設の地下への埋設などを積極的に支援していきたいと考えています。
 これらのグリーン電力の開発は、初期投資は大きいものの、その後は燃料が不要なものが多いといえます。現在、太陽光発電設備と風力発電設備にしか認められていないグリーン投資減税をバイオマス発電設備、地熱発電設備をはじめとするグリーン発電設備に広げるとともに、適用の期間を延長するなど、積極的に支援していきたいと考えています。

 エネルギー政策は、国民生活と産業の大切な基盤です。しかし、これによって国民生活の安全が妨げられたり、不安の種になるようなことがあってはなりません。私は、この基盤をしっかりと確立するために、温暖化対策を踏まえてクリーンな代替エネルギーによるエネルギー・ミックスを積極的に推進してまいります。

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